2008/12/31

築20年トラップ


ボクは毎日お風呂に入る時、湯舟には浸からずシャワーだけで済ませるエコな好青年です。
それはどんなに寒くても同じで、決してバスタブにお湯を溜めることはありません。
理由は、疲れるから。
 
「お風呂にゆったり浸かると疲れが取れるんだわさー」
などとよく言いますが、ボクの場合はその逆で、すんげー疲れます。
めちゃめちゃぐったりするんですよね。
お湯の奴らに体力と気力を吸い取られちゃう感じで、何もやる気がしなくなります。
あいつら間違いなくドレインの魔法使ってるぜ。
だってヘロヘロになるもん。
 
人はその脱力感を『疲れが取れる』と表現するのでしょうが、ボクはそんな風に思えません。
明らかに体力を奪われ、疲れが増してます。
 
つーか、たぶんみんな騙されてるんだと思いますよ?
お風呂で疲れが取れるなんて都市伝説だから(笑った絵文字)
大きいフォントじゃ書けないけど、ここだけの話、それ、お風呂業界の罠だから(ヒヨコの絵文字)
 
「1時間お風呂に入ってたからすっかり疲れが取れたよー」
って言う人がそこらへんにゴロゴロしてますが、
ボクが思うに、その1時間を睡眠に回した方が絶対にもっと疲れが取れると思うんです。
美容と健康のために長時間入るのはわかりますが、疲れを取りたいなら早く寝ろ。
これがボクの持論です。
 
  
>>>
 
 
とまぁ、こんな風にお風呂業界を敵に回して命を危険にさらしているワタルさんは
年の瀬を迎えた今でもシャワーだけで過ごします。
 
12月29日。午後7時30分。
 
いつものようにシャワーからお湯を出して頭から浴び、シャンプーを手にとって髪の毛を泡立てます。
ボクはまず頭から洗うタイプの無職なので毎日このプロセスです。
 
「さぁて、そろそろ髪を洗い流そうかな」
 
そう思った時、悲劇が起こりました。
今まで生きてきて初めて経験するトラジェディー。
それが最悪のタイミングで訪れました。
 
なんと、突然シャワーがピタッと止まりやがったのです。
 
……え?
なになに? 断水? 
でもそんな連絡聞いてないよ?

ひょっとして水道止められた?
いや、水道代はちゃんと払ってるし、
それに、もし止められるとしても水道は生活インフラの中でも一番最後に止められるはず。
ではなぜ?
 
うーん。
わからない。
 
とりあえずこのまましばらく待ってみよう。
そのうち回復するかもしれないし。 
 
―――1分経過。
 
まだ出ない。 
 
―――3分経過。 
 
出ない。
つーか、寒い。
 
体が濡れてるだけなら一旦タオルで拭いて浴室から出ちゃえばいいのですが、
髪の毛がシャンプーの泡だらけなのでこれはどうしたものか。
しかもボクは結構髪が長くて量も多いので泡の量がハンパない。
うーん。 
 
―――5分経過。
 
出ねえええぇー。
真冬に素っ裸で放置されて既に5分。
雪国もやし出身の元ラガーマンでももう限界です。
 
『34歳無職の独身男性、シャワーが止まってそのまま凍死』
 
こんな新聞の見出しが頭をよぎります。
これはヤバイ。カッチョ悪い。そんなの嫌。
 
このままではガチで命の危険があると判断したボクは
とりあえず濡れた体を拭き、シャンプーの泡だらけの頭をバスタオルでくるくると包み込んで脱出。
で、そのまま何でもいいから適当にたくさん服を着込んでエアコンのスイッチを入れて
家中の水道が全部出ないことを確認し、鼻水を垂らしながら今後の行動について作戦を練り始めました。
 
まずはパソコンを立ち上げてネットをパトロール。
近所で断水が発生していないか調べます。
 
異常なし。
 
ということはウチのマンションの問題か?
でも一応水道局にも連絡して確認をとってみよう。
でも電話番号わかんね。
ググって調べよう。ポチっとな。
 
で、水道局お客さまセンターのページを発見して問い合わせ電話番号をゲット。
えーっと、問い合わせ時間は……20時までか。
今の時間は?
19時58分。
やべえ、あと2分しかねえ!
速攻で電話。
 
(Prurururu... Prururu...)
 
オペレーターのおねいさんが出ました。
 
「あのー、すいません、30分くらい前から急に水道が出なくなったんですが」
「そうですか。それではお調べ致しますのでお客様の契約番号はお分かりになりますでしょうか?」
「ごめんなさい、今はちょっとわからないです」
「それではお客様のご住所を教えていただけますか?」
「えーっと、○○○○▲▲▲▲□□□□□です」
「はい、ありがとうございます。それではその地区の担当者に代わりますのでお待ちください」
「はーい」
 
10秒後、今度は若いお兄さん登場。
  
「お調べしましたがお客様の地域で断水や工事などはございませんので、
 お住まいの集合住宅にある給水タンク等の問題かもしれません」
「なるほどー。それじゃあマンションの管理会社に連絡した方がいいですね」
「はい、そうしていただけますでしょうか」
「わかりました、どうもありがとうございました」
 
1分後、マンションの管理会社の番号を調べて電話。
今度は中年のおっさん登場。
 
「あのー、すいません、30分くらい前から急に水道が出なくなったんですが」
「えええーっ!? す、水道がぁ!?」
 
なんだよそのリアクション。
マスオさんかよ。
 
「で、先ほど水道局に電話をしたらあちらでは特に問題はないとのことでしたので
 給水タンクなどに問題があるのではと思い、そちらに連絡した次第です」
「それはそれはご迷惑をお掛けいたしまして申し訳ございませんでした。
 それではお客様がお住まいの物件名を教えていただけますでしょうか?」
「はい、○○○○▲▲▲▲□□□□□の○○○号室です」
「お調べ致しますので少々お待ち下さい」
 
(カタカタカタ) 
たぶんキーボードを叩いてデータベースを調べている音でしょう。
(カタカタカタ)
20秒経過。
 
「あの〜、お客様、大変申し訳ないのですが……」
「はい」
「私どもの管理物件にはそのマンションは登録されていないようなのですが……」
「え? いや、そんなはずはないと思いますけど」
「うーん、おかしいですねぇ〜」
(カタカタカタ) 
「あのー、2週間くらい前にそちらの管理会社に変わったという連絡がきたんですけど、
 ひょっとしてそれが原因でまだデータベースに反映されていないのでは?」
「あぁ〜! そうでしたか! それなら仕方ありませんよね!」
 
いやいやいや、仕方なくねーだろ。
管理下に置かれたその日からちゃんと管理してデータベース更新しろよ。
どんだけやっつけ仕事してんだ。
まぁウチのマンソンはいろんな管理会社をたらい回しにされてる築20年の怪しいマンソンだけどさ。
(ちなみに最初の契約から3回も変わりました)
 
「それでは再度お調べして折り返しお電話させていただきますので、
 お手数ですがお客様の電話番号を教えていただけますでしょうか?」
「はい。090−****−****です」
「ありがとうございます。それではしばらくお待ちください」
「はーい」(ガチャ)
 
そして3秒後、ケータイ電話が鳴り響く。
早っ!
 
「も、もしもし?」
「あー、ワタルぅ? 今新宿の居酒屋で飲んでんだけどお前も来ない?」
「へ?」
 
それは管理会社からではなく友人のFくんからでした。
 
「なんだよ、Fかよ。ごめん今他の電話待ってるから切るね」
「なになに? 冷たくね? ひょっとして女?」
「ちげーよ。今ちょっと大変なことになってんの」
「どうしたの?」
「さっきシャワーしてたら突然水道が止まって、シャンプーしたまま放置されてんの。頭は泡だらけ」
「なにそれ? マジで?」
「うん。だから動けないんだよね。今から直してもらうから」
「別にいいじゃん、そのまま今すぐこっち来なよ」
「いやいや無理だろ。なんでシャンプーしたまま電車に乗って新宿行かなくちゃなんねーんだよ」
「話題性があるな」
「ねーよ。ヘタしたら警察に捕まるわ。34歳無職の独身男性、電車内でシャンプーして逮捕」
「きゃははは! 間違いなく痛いニュースに載るなそれ」
「だから今日は無理。ごめんね」
「えー、残念だなぁ。ワタルに紹介したい女の子がいたのになー。まぁしょうがないか。またな!」
「ちょ、ちょっと待ちたまえ。状況が変わった、続けてくれ」
「うん、あのね、今仕事の打ち合わせを兼ねてある人と飲んでるんだけど、
 ひょんなことからワタルの話になって、無職で貧乏でオタクの変態なんだよって話をしたら
 是非一度会ってみたいって言うのでどうせヒマだろうと思って電話してみたの」
「……そ、そうか。喜んでいいのかわかんないけど」
「だから来てよ。忘年会やろうぜ」
「新宿だっけ? 何時までそこにいるの?」
「次の予定もあるから10時半くらいかなー」
「10時半か……」
 
時計を見る。
現在20時5分。
 
「うーん、それまでに水道が復旧して間に合うようなら行くわ」
「了解ー。んじゃ待ってますー」
「あーい」(ガチャ)
 
そして3分後、再びケータイ電話が鳴り響く。
今度こそマンソン管理会社からです。
 
「ワタルさま、大変お待たせ致しました。
 管理物件が確認できましたので今からそちらに作業員を向かわせます」
「はい、わかりました。……で、あのー、大体どのくらいで復旧できそうですか?」
「実際に見てみないとわかりませんが、なるべく早く対応させていただきますので……」
「はーい。それではよろしくお願いしますー」
 
そして、21時10分。
水道復旧。
すぐにシャワーを浴び直します。
 
んで、21時35分、外出準備完了!(←行く気満々ぢゃねーか)
 
ウチから新宿駅まで約30分。
そこからFくんたちがいるお店まで10分くらいとして……ギリギリか。
つーか、到着してビールを飲んで、残ってる料理の残飯処理をしたらさようならか。
 
うーん、どうしよう。
まぁヒマだからとりあえず行くだけ行ってみるべ。
 
というワケで、駅までダッシュ。
ショートカットできるコースを選んで野良猫のように夜道を駆け抜けます。
するとその途中でFくんからケータイに入電。
 
「あ、ワタル? 水道もう直った?」
「うん、直ったよ。で、今そっちに向かってるとこ」
「わー、ゴメン。もうお店出ちゃったんだ」
「へ?」
「なんか年末だから2時間制だったみたいでさー」
「あ、そっか……」
「今どこらへん? もう新宿着いた?」
「ううん、まだウチの近所だよ」
「よかったー。今日はもう帰るからまた今度飲もうぜー」
「う、うん、そうだな」
「それじゃあまたねー」
「おう。ばいばいきーん」
 
………………。
 
というワケで、そのまま家に帰るのもアレなんで
中板橋の駅前にあるブックオフへ行って閉店までシティハンターを立ち読みしてました。
 
2009年もよろしくお願いします。XYZ。(泣きながら)


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